BOOK&MUSIC
2023.2.13(Mon.)
お茶を淹れてひと息つく時間は、
豊かな日常のひとコマです。
ここでは、長野県富士見町で街の小さな本屋
<mountain bookcase>を営む石垣純子さんに
ゆったりと流れるお茶の時間を共にしたい
“森にまつわる本” を案内していただきます。
「Cabin Porn Inside」
小学3年生くらいの頃だったか、担任の先生が、木の上にツリーハウスがほしいと夢みる少年を描いた絵本が大好きで読み聞かせをしてくれた。その先生の提案で毎週授業で小屋を作っていたことがある。
小学校の裏手の森を卒業までの数年間という約束で地主さんから無償で借り、5人〜6人で1棟を建てることになった。
お絵描きのような設計図を書き、周辺を歩いてまわって廃材を集めるところからはじまり、クラスでたしか5棟くらいの小屋を建てたと記憶している。
慣れない釘打ちやうまく引けないノコギリ、土台から屋根まで、すべて誰に教えてもらうわけでもなくはじめられたその小屋作りは、小学生にしては大作な上、無謀すぎるのではないかと思われるような計画だったけれど、出来上がった小屋のクオリティはともかくとして、あの時わからないことを試行錯誤しながら小屋作りをしたという経験はとても大きかったと今は思える。
あれから時を経て、小屋の写真集や本のページをめくると、子ども時代を過ごした森や、つぎはぎだらけの小屋作りに費やした懐かしい時間を思い出す。
『Cabin Porn Inside』はそんな記憶を掘り起こしてくれる本のうちのひとつである。
「Cabin Porn」は、もともと動画共有サイト「Vimeo」を共同で立ち上げたザック・クラインが仲間と共に2010年に立ち上げた、キャビン・ライフを提案するオンライン・プロジェクトで、今では世界中の小屋愛好家が建てたこだわりの小屋の写真を投稿する人気サイトとして世界中にファンがいる。
そのサイトから生まれた、小屋とそこに住まう人々の暮らしを紹介した『Cabin Porn』は書籍化され、日本語に翻訳されたものも2タイトル出版されている。
個人的には先に出版された「Cabin Porn」よりも、小屋の内部にフォーカスした「Cabin Porn Inside」の方が、内装や家具はもちろん、部屋に置かれているものがその持ち主を表しているようで、さらに飽きることなく眺めていられるように思う。
世界中さまざまな場所に建てられた小屋の写真は、森の中なら森の湿度と木々の香りが、乾いた土地ならその陽射しの香ばしさが、それらの風景とともに土地の空気を伝えてくれる。
小屋の魅力とは一体何であろうか。
小さなスペースは余計なものを置けない分、本当に必要なものを教えてくれる。
余分なものから解放されたいという思いが小屋への憧れとなり、なるべくシンプルに生きたいと願う人の心を魅了する。
PROFILE | プロフィール
長野県出身。文芸書から絵本まで、新刊と古本を扱う小さな本屋<mountain bookcase>店主。2004年より約8年間ブックカフェの責任者を経て、2013年より移動書店の形態で活動をはじめる。2018年韮崎に実店舗を構え、2020年秋に地元の八ヶ岳の麓・諏訪郡富士見町に移転。人生に欠かせないのは旅と本。
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