yasoの作り手たち /木葉社 野澤崇徳

STORY
2023.3.23(Wed)

yasoのプロダクトが生まれる背景には、プロフェッショナルな作り手たちの存在があります。

作り手たちがその道に出会うまでのストーリー、
制作にかける想いなどを伺いました。

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染色から考える、
人と植物と畑の循環

「ちょうどいい」を
つくるために

 

暮らしに溶け込む淡く優しい色合い。

風になびいて揺れる、草木の息づかいと生命力を感じさせる草木染。

 

yasoプロダクトの一つである『赤松で染めた手ぬぐい・風呂敷』は、「グレー」と「ベージュ」の2色がある(20203年3月現在)。まったく異なる色合いだが、染めに使っているのはどちらも同じ赤松の樹皮だ。この色の違いは一体どこから生まれるのだろう。

 

儚さと力強さをあわせ持つ草木染めについて、yasoプロダクトの染色を担当する野澤崇徳さんに話を伺った。

 

現場で生まれる材を、
余すことなく
使いたい

「『赤松で染めた手ぬぐい・風呂敷』は、伐採や剪定の現場で生まれる赤松の樹皮を使って染めています。枝葉はすでに、『八十茶』や『森のお香』に使っているから、樹皮で染めたら、材を余すことなく活用できると考えたんです」と野澤さん。

 

草木染めでは、植物を煮出して作った染め液に布を浸した後、色を定着させるために「媒染剤」と呼ばれる金属の成分を含む液体に浸ける。この工程を繰り返すことで、色落ちしにくい仕上がりになるという。

 

「使う金属の種類によって、最終的な染め上がりの色が変わるんです。赤松の場合、鉄と反応させるとグレーに、アルミニウムだと少し明るいベージュになります。ほら、学生の頃理科の授業で、燃やす金属によって炎の色が変わる実験をしませんでしたか?イメージとしては、それに近い感じです」

 

ちなみに赤松の樹皮を煮出して作る染め液そのものの色は、茶色なんだそう。思わず「化学だ……」と呟くと、「僕もプラスとマイナスの金属イオンがどうこうっていうのは、あんまり得意じゃないんです」と、野澤さんはあっけらかんと笑った。

 

 

露巡る「ろじゅん」

長野県の兼業農家を営む家に生まれ、幼い時から山や畑を遊び場にして育った野澤さんにとって、植物から色を取り出す草木染めは、暮らしと地続きの営み。だから媒染剤として選ぶ金属にも、ある思いがあった。

 

「僕が媒染剤として用いるのは、ほとんどが鉄とアルミです。他の金属も素敵な色が出るけれど、鉄やアルミに比べると環境負荷が大きく、廃液を気軽に流せない。それに鉄やアルミは、道端の石ころなんかにも含まれている身近な金属だから、アレルギー反応も起こりにくいと考えています」

 

野澤さんの自然に対する思いは、20代の頃に藍染めの染色作家として活動していた時の屋号「ろじゅん」にも込められている。

 

「その当時、実家の畑の一部を借りて藍を育て、染め液を作っていました。下水もない簡素な納屋のような場所を作業場としていたため、使用するものや使用後の染め液は畑に戻せるもので作りました。液体がサイクルする、畑と染めが大地を巡るイメージから『露(つゆ)巡る』という言葉が頭に浮かびました」

 

一枚の写真に魅せられて

野澤さんと草木染めの出会いは、20代の初めにまでさかのぼる。当時働いていた八ヶ岳の山小屋の本棚にあった『ナショナルジオグラフィック』を眺めていたら、ある女性の写真が目に留まったという。

 

「多分、マリ共和国のお祭りの写真だったと思うのですが、赤土色の大地に立つ、きれいなライトブルーの民族衣装をまとった女性が写っていたんです。なぜだかわからないけど、その衣装にすごく惹かれて、自分でも作れないかなと思ってしまって」

 

藍染めの存在を知らなかった20歳そこそこの野澤さんは、手芸センターで染料を買い、自ら作ったソムリエエプロンを染めてみた。

 

「そのエプロンも気に入ったんですけど、あの写真は民族衣装のように見えたから、もっと自然に近い方法、昔ながらの染め方があるんじゃないかと考えました」

 

調べてみると、藍染めというものがあるとわかった。「藍は扱いが難しいとか、伝統だ、一子相伝だなどと書かれていたんですが、そんなことはないだろう」と、いくつものハードルを好奇心で軽々と飛び越え、野澤さんは藍染めの世界に足を踏み入れた。

 

働いていた山小屋は、25日働いて5日休むサイクルだった。そこで野澤さんは、2カ月休みなく働き、まとめてもらった10日間の休日に、図書館に通い、全国の染色家のもとを訪ねて回った。染色の研究をしていた大学教授から、藍の種を分けてもらったことをきっかけに、自分でも栽培を始めた野澤さん。育てた藍で染め液を作るには、葉を発酵させる必要があるため、休暇中に摘み取った葉を発泡スチロールの箱に入れて、山小屋に持って上がった。

 

「小屋の一角を借りて、藍の葉を発酵させていました。腐敗と発酵って、現象としては同じで、ただ人間にとって都合が良いか悪いかの違いなんですよね。僕の意思とは無関係に発酵に傾いたり腐敗に傾いたりする、その過程を観察することに夢中になっていました」

 

実験君ここにあり

自らを「実験君」と称する野澤さんは、植物を相手に「うまくいったり、いかなかったり」する藍染めの世界に魅了され、ついには毎年個展を開くまでになった。

 

「その頃には山を下り、専業の作家として活動していました。といっても、藍を育てて染めることに一生懸命で、売ることにはあまりエネルギーを割けていませんでしたが」

 

専業作家として活動を始めて3年が経つ頃、野澤さんは林業と出会い、樹木の世界にも「実験君」の心を掴む面白さを見出した。現在は主に林業の世界で、ツリーケアや樹木管理といった環境整備の仕事を担う野澤さんは、染色についてこう振り返る。

 

「優先順位で言えば『暖かい』など機能性の方が大切で、色は何でもいいんですよね。時代とともに技術が発展しできることが増えているからこそ、『何でもいい』はずの彩りを出すために、何を使ってどう染めるのか、常に考え取捨選択していく必要があると思っています」

 

 

長野よりも緑が多い東京の街

樹木医や環境再生医として働く野澤さんに、樹木の少ない都市部でどうすれば「森と寄り添う暮らし」ができるか尋ねると、予想外の答えが返ってきた。

 

「『都市には緑が少ない』ってよく言うけれど、それって本当かな?

 

東京には確かに、迷い込むような大きな森は少ないかもしれない。でも、街路樹の本数で言えば、長野県の5倍以上も多いんです。東京で暮らしていても、『ある』ことに目を向けられるようになったら、街の見方も変わるんじゃないかな」

 

だからといって「大事に保護する」という一方的な関係ではなく、「親和性のある状態になるといい」と野澤さん。あって当たり前だけど、互いの存在を意識できること。少し見方を変えると、目の前の景色が昨日とは違うものに見えてくるかもしれない。

 

「大きな樹木ではなく、ベランダにあるような鉢植えからでも、人や森を含む有機的なつながりは始まっているんです」

 

 

 

「ちょうどいい」をつくり出す仕事がしたい

 

野澤さんは街中林業に携わるなかで、都市部に住むお施主さんと、地方で暮らす人たちの植物に対する思いには、大きな差があることに気づいたという。「都市部で暮らす人の方が、植物を大事にしたいという思いが強いんですよね。それってどういうことなんだろう」

 

近すぎると大切に思う気持ちは薄れていき、遠くに感じると、もっと欲しくなってしまう。慌ただしい暮らしのなかで、森や植木鉢が「ある」ことに目を向け、目には見えにくいつながりを感じながら暮らすのは、簡単なことではないのかもしれない。

 

「森と寄り添う暮らしのヒントは、衣食住にあると思っています。例えば、植物を食べたり眺めたりすることが暮らしの彩りと食に繋がり、赴くままの散歩の踏跡が道となり住まうに繋がる。今回のプロダクトのように、植物から汲んだ色の衣を身につけるというのもそう。そういった小さなアクションが日々の暮らしに散りばめられていたらいいなと思っているんです。人と植物の間に橋をかけることができる周辺環境や庭のような存在は、『ちょうどいい』を見つける糸口になるかもしれません」

 

「ちょうどいいってどこなんだろう」。草木染めから樹木の世界へと活動のフィールドを広げながら、人と植物が共にある「ちょうどいい」を、野澤さんは問い続けている。

 

 

Text_Nana Akasabi